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あしあとをよむ

植物、物語、音楽あたりが好きです。だらだらと更新中。

この世界の片隅に こうの史代

マンガが大好きだ。

井上雄彦の音まで聞こえてきそうなシャープで躍動感あふれる線、水木しげるの緻密すぎる点描、ほしよりこ益田ミリの語る空白、そしてこうの史代のただひたすらに柔らかい描写…。漫画っていうのはほんとうに画だなぁと思う。カイジナニワ金融道もあの画じゃなかったらきっとあそこまで面白くない(例えが悪いか…。)

この作品は、やはりすごい傑作だと思う。
伝えたいし、残したい。
画を眺めたいばかりに何度も何度も開いてしまう。ご本人のインタビューで、「戦時中でも続くだらだらとした日常を描きたかった」とあった。

反戦を声高に叫ぶわけではない。押し付けがましさは一切ない。ものすごく重いテーマを描いているのになぜこんなにもフラットでいられるのだろう。

しかしその淡々とした光みたいなものがじわじわと心の中に染み込んで、やがて生き方さえも変えてしまう、そんな力がこの作品にはある。

そして巻末の膨大な資料、施設、人々への感謝(主なもの、と書かれていた)ものすごく調べ上げているのでそれらが作品にすさまじいリアリティを与えている。はだしのゲンよりよほどリアルなのではないかと思う。この柔らかい線の中にどれほどの熱量が込められているか、考えただけでぞっとする。いくら頭がよくてもいくら感性が鋭くてもこの怨念にも似た熱量がなければ絶対にこんな作品は作れない。

この作品には作者がいるようでいない。優れた作品を作る人は皆書いたのではなく書かされた、というものなぁ、本当にすごい。そんな作品に出会える喜び。めったにないけど。

過ぎたこと、選ばんかった道、大切なものを失った時、主人公がなにを選び、どのように生きてゆくのか。市井の人々、日常のすごさが胸にせまります。

あとがきも素晴らしいです。

そう、今、生きているという事、すべては奇蹟であると思う。だから自分の周りをちいさな宝物でいっぱいにしよう。かぎりなくやさしい言葉で満たそう。完璧を目指し過ぎず、勇気と共に大胆に行動しながら。人生の時間には限りがあるのだから、やっぱり大切な人を優先して大切にしよう、愛を表わそう、そう思えるなにか…言葉では表せない決意をこの作品からもらったのだ。

只今アニメにて映画化大好評のようですが、原作素晴らしいです。漫画という媒体の可能性を体現しているような本です。

ぜひこちらも。

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この世界の片隅にこうの史代  双葉社